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アオムシとグリーンピースの花

「有機野菜」「無農薬野菜」「オーガニック野菜」の違いは?有機栽培とは?栽培方法も含めて解説

健康や地球環境のことを考えて「有機野菜」「無農薬野菜」「オーガニック野菜」を選ぶ方も多いと思います。
しかし、これらの言葉を聞いて違いがはっきり分からない場合もあるのではないでしょうか。
僕も農業を始める前までは漠然としか分からず言葉のイメージだけで把握していました。
研修時期も含めて農業に関わり始めて10年、これらの違いは明確なようであり認識によるところもあってなんとなくはっきりしないところもありますが、僕なりにいろいろな角度から違いを解説していこうと思います。

 

有機野菜の「有機」とは?意味とその歴史

畑のラディッシュ

もともと古来からの農業は化学肥料も農薬も一切使われていませんでした。
日本では1890年代の明治時代になると外国からいくつかの化学肥料や農薬は輸入されはじめたそうです。今から120年くらい前です。
戦後、国民の食糧確保のために化学肥料や農薬を使用する農法(現在では慣習的に行われるという意味で、慣行農法と言います)が必要性と時代の流れで急速に研究され広まりました。

慣行栽培のキャベツ畑

慣行農法は効率的に安定してたくさんの収穫物を得る意味ではとても有効的で、市場にはたくさんの農産物が流通し、消費者にも十分な食料を得られるようになりました。
一方、化学肥料や農薬を多用することで地下水の水質汚染や生態系の破壊など地球環境に影響を及ぼしているという懸念が1975年くらいから起こりはじめました。
農薬の事故も多かったり、農薬が健康被害の原因になるとの見解も生まれ、それまで慣行農業をしていた農家さんが化学肥料や農薬の使用をやめ、堆肥など有機質肥料で安全なお野菜を育てる「有機農業」をはじめる農家さんが出てきました。

「有機農業」は農村部の「安全な食べ物をつくる農家さん」と都市部の「安全な食べ物を子どもにも食べさせたい」母親が直接つながる「提携」という仕組みで市民運動的にスタートしました。
「安全な食べ物」ということ以外にも、「環境保護・循環型社会」を目指し「大量生産・大量消費からの脱却」や「農家と消費者が直接顔の見える関係」など思想的な意味も含んだ大きな概念として「有機農業」という言葉が使われていました。
このころの日本の「有機農業」がヨーロッパなどの海外に渡り認知され「アグリエコロジー」という言葉になって現在の日本に逆輸入されているということも知りました。

「安全な食べ物」ということ以外にも、「環境保護・循環型社会」を目指し「大量生産・大量消費からの脱却」や「農家と消費者が直接顔の見える関係」など思想的な意味も含んだ大きな概念として「有機農業」という言葉が使われていました。
このころの日本の「有機農業」がヨーロッパなどの海外に渡り認知され「アグリエコロジー」という言葉になって現在の日本に逆輸入されているということも知りました。

「有機野菜」とは?

ラディッシュ

僕が研修を2年間受けたのは有機農家さんでした。農薬と化学肥料や除草剤を一切使わず、剪定チップとおからと米ぬかで堆肥を農園内で作り、それを畑の土にすき込んで有機質と養分豊かな土を作りお野菜を栽培、販売している農家さんでした。
場合によっては牛糞堆肥を使うこともありました。
畑の土はふかふかで温かみがあり、生き物もたくさんいました。除草剤を使わない為、草が勢いよく伸びること。農薬を使わないのでせっかく育てているお野菜が、虫に食べられて育たなかったこと。虫だらけで食べることも、販売することもできなかったこと。
化学肥料を使わないので思うように生育しなかったこと。いろいろ大変なことを経験しました。
その代わりに、温かみのある土に触れてお野菜を育てる楽しさ、しっかりした豊かな味がするお野菜の美味しさを知りました。

まさに化学合成肥料や化学合成農薬を使わず、自然由来のものだけで伝統的な有機農業をしている農家さんでした。
その有機農家さんはお母さんが体を壊したことをきっかけに1980年に当時時代の主流になっていた慣行農業から有機農業へと転換した農家さんでした。
このお母さんからよく当時の話を聞き「提携」という仕組みを作り市民活動的に始まった「安全な食べ物」だけでなく「環境保護・循環型社会」までを含む「有機」という概念を知りました。
ここでは「有機農家さんが育てたお野菜」が「有機野菜」でした。
それはそれであっているのですが、「有機」という言葉には別の角度からもう一つ意味があることを知りました。

もう一つの有機「JAS有機」という概念

有機JASマーク

このように市民運動的からスタートした伝統的な有機農業の「有機」という言葉は思想的・概念的な意味で使われていたので、発信する側と受け取る側が相違の理解のもとに成り立ち、はっきりした基準は設けられていませんでした。

戦後、食料自給率を上げるために慣行農業が広く普及していた時代は有機農業の農家さんは異端的な存在でした。
その後の1980年代から「有機農業」というものが時代と共にだんだん認知され広がったことをきっかけに国は1990年代終わりころに販売される農産物に一定の基準を設けました。
それがもうひとつの「有機」である「JAS有機」です。
これは「有機農業」そのものや「有機農家」さんの在り方に対する基準ではなく、「販売される生産物」に対する品質の基準になります。
販売される農作物がどのように育てられたか?JAS有機の規定に沿って育てられたものか?ということを判断基準にして設定されています。
農家さんがどのような歴史を持ち、どのように考え農業を実践しているか?ということよりも、流通する生産物が国が定める「有機」の一定の基準を満たしているか消費者に分かりやすく表示することを目的に定められました。
市民運動的からスタートした伝統的な「有機」と、国が定めた有機JASの「有機」、「有機」という言葉は2つの意味を持つことになりました。
このそれぞれの「有機」という言葉に共通点もありますが相違点も多いことが「有機野菜」を分かりずらくしている一端になっています。

では有機JASとはどういうものでしょう?
以下は国が定めた有機JAS規格基準の一部です。農林水産省のホームページには以下のように記載されています。 
 
有機JASマークがついた野菜は、農業の自然循環機能の維持増進を図るため、以下の方法で生産されています。

たい肥等で土作りを行い、種まき又は植え付けの前2年以上、禁止された農薬や化学肥料を使用しない
土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮させる
農業生産に由来する環境への負荷をできる限り軽減
遺伝子組み換え技術を使用しない

有機農産物は、無農薬・無肥料で栽培しているわけではありませんが、化学的に合成された肥料の使用を避け、
限られた農薬を使用することを基本として、自然界の力で生産された食品です。
有機JASマークは、農薬や化学肥料などの化学物質に頼らないで、自然界の力で生産された食品を表しており、
農産物、加工食品、飼料及び畜産物に付けられています。
有機食品のJASに適合した生産が行われていることを登録認証機関が検査し、その結果、認証された事業者のみが
有機JASマークを貼ることができます。
この「有機JASマーク」がない農産物と農産物加工食品に、「有機」、「オーガニック」などの名称の表示や、
これと紛らわしい表示を付すことは法律で禁止されています。
こうした基準を設けることで、消費者が商品を選ぶときの目安にすることが出来ます。
(農林水産省HP 有機JAS制度についてから引用)

となっています。
詳しく見ると細かい内容がたくさん規定されています。
JASが認定している一部の農薬の使用も認められています。
このように基準に適合し認定をとった農産物のみが「JAS有機」マークをつけて販売することができます。
昔ながらの伝統的な有機農業で育てたお野菜も認証をとっていなければ「有機」という言葉をつけて販売できず、認定をとれば「JAS有機」と表示して販売してよいというルールです。
反対に有機JAS規定で定められている農薬を使用していても認証をとっていれば「JAS有機」表示した「有機野菜」として販売できます。
ここでは「国が定めるJAS有機規格に適合する野菜」が「有機野菜」です。

2つの「有機野菜」

畑の景色

まとめると「有機野菜」には「伝統的に行われてきた有機農家さんが育てるお野菜」と「国が規定するJAS有機規格に適合するお野菜」という2つの意味があります。

同じ「有機」という言葉が使われていますが、対象となるのが「概念的」なものと「生産物に対するもの」なので土俵が違い比べることが困難です。
ただ一つ言えるのは販売されているお野菜にはっきりと「有機」と表示してよいのは、現在は国の認証をとった「JAS有機」の生産物だということです。

自分の研修した農家さんは有機JAS認証をとっていなかったので、伝統的な有機農栽培であり農薬は一切使っていませんでしたが、販売するお野菜には「有機」の表示はありませんでした。
一方、スーパーや店舗などで売られている「有機JAS」マークがついたお野菜を生産している生産者は有機JASで認められている農薬を使用してお野菜を栽培している場合もあります。
もちろん伝統的な有機農業をしている農家さんが有機JAS認証をとった場合、その農家さんが販売する「有機JAS」マークがついたお野菜は農薬は使われず栽培されたお野菜です。
その為「JAS有機」マークだけでは栽培するときに農薬を使ったか?使ってないか?どちらか判断できないのが現状です。

「有機野菜」と「無農薬野菜」の違いは?

実ったナス

ここから先は「有機野菜」という言葉は(伝統的な有機農業で育てられたお野菜ではなく)「JAS有機の生産物」と同義語でお話します。

無農薬野菜は言葉通りに捉えると「農薬の無い野菜」ということになります。
もっとつきつめると「お野菜の中に農薬がないのか?」「農薬無しで育てられたお野菜なのか?」ということになります。
ここの部分はあまり細かく考えたことがないのではないでしょうか。
僕は農家として農薬は一切使わず栽培することにより、実はこの2つにはとても大きな違いがあることを知りました。

その前に「無農薬」という言葉をウィキペディアで調べると、「無農薬栽培」をいう項目でヒットして

無農薬栽培(むのうやくさいばい)は農薬を使わずに米や野菜などの植物を栽培する方法。無農薬農法ともいう。

と記載されています。

ここを基準すると「農薬を使わず栽培されたお野菜」が「無農薬野菜」ということになります。
販売される農産物に対しては「無農薬」と表示することを国がガイドラインとして推奨していないため、販売時に記載されるお野菜についた「無農薬」という言葉には明確な基準がありません。
(ガイドラインは「指針」や「行動規範」という意味で自主的に遵守することが推奨されるルールです。)
「無農薬野菜」ではなく「栽培期間中農薬不使用」などの表記が推奨されていますが、どちらにしても明確な基準がないので「農薬を使わず育てました」という意味の表示になります。
農薬を使っているのに「無農薬」とういう表示をしている場合は問題外なのでここではそれは無いことにします。
では無農薬野菜の農薬の成分が1ミリも入っていないのか?という、山奥の周りが自然豊かな環境で無農薬農家さんのみの集落があればそれはそのとおりですが、慣行農法と共存している農村部では一概には言い切れません。
可能性として無農薬栽培を始めたばかりの畑の土の中にそれまでに残っていた残留農薬がある場合や隣の畑が慣行農家さんだった場合、農薬が風にのって届く場合などのケースがあります。
ですので農薬を一切使わず育てた「無農薬野菜」に農薬の成分が一切入っていないかどうかまでは判断できない状態です。

「無農薬野菜」は「農薬を使わず育てたお野菜」
「有機野菜」は「JAS有機の規定に適合したお野菜」(一部の農薬は使用可)

農家の在り方である「無農薬野菜」と国の基準の「有機野菜」
これも比べられるようで「お野菜の育て方」と「生産物に対するもの」になるので非常に比べにくいですが、まとめるとこのようになります。
それとは似た言葉にオーガニックというものがあります。
ではオーガニック野菜とはどのようなものでしょうか?

 

「オーガニック野菜」とは?「有機野菜」との違い

 カボチャの苗

オーガニック(Organic)は直訳すると「有機」という意味なので
オーガニック野菜は有機の野菜ということになります。
「オーガニック野菜」=「有機野菜」ということになります。
この有機野菜は伝統的な農法の有機野菜でしょうか?有機JAS規格に適合する有機野菜でしょうか?
オーガニックという言葉の意味も含めて見ていきましょう。

もう少し広い意味でオーガニック(Organic)を調べてみると
国際的にオーガニックを推進している組織であるIFOAM( 国際有機農業運動連盟)はオーガニックの定義として

「生態系」「健康」「公正」「配慮」

の4つを原則として挙げています。
もう少し細かく見ると

生物多様性
気候変動
食品と栄養のセキュリティ
男女平等
健康
土壌
生計の強化
持続可能な発展

まで含めたトータル的な概念を含む言葉になります。
「オーガニック」は日本の伝統的な有機農業の「有機」としてとらえられています。
ここでは「オーガニック野菜」は「日本の伝統的な有機農業のお野菜」ということになります。

しかし、ややこしいことにこれを販売するお野菜に表記してよいかというとここに有機JAS規格が関わってきます。
有機JAS規格ではこの規格に沿ったものだけに「オーガニック」の表示をしてよい、というルールになっています。
ここでは「オーガニック野菜」は「有機JAS規格のお野菜」ということになります。

まとめると「オーガニック野菜」は
「日本の伝統的な有機農業のお野菜」

「有機JAS規格のお野菜」
の2つの意味としてとらえられます。
ただし、農産物を販売するとき「オーガニック」と表記してよいのは「有機JAS規格のお野菜」だけということになります。

これらのこと「有機農業」「有機野菜」「無農薬栽培」「無農薬野菜」「無農薬栽培」「オーガニック野菜」という言葉の違いは農家として農業界に入ってから知ったことがほとんどになります。

お野菜を買う側の方はそのお野菜が自分や家族の健康や地球に与える影響などを「JAS有機」や「オーガニック」マークがついているかどうかの判断になると思います。
「無農薬」と表示されているものに関しても「お野菜の中に農薬がないのか?」「農薬無しで育てられたお野菜なのか?」はっきりわからないと思います。

より正しい認識を持って野菜選びを

反り返るイモムシ

最後に少し農家としての個人的な見解となります。
無農薬農家の僕にとって「お野菜の中に農薬がないのか?」「農薬無しで育てられたお野菜なのか?」この2つにはとても大きな違いがあると感じています。
農薬を使わないということは除草剤も使わないので畑では草も勢い良く育ち、いろいろな虫のたくさんいる生態系豊かな自然な環境になりお野菜はその中で育ちます。
自然環境豊かな畑でお野菜を育てると虫や微生物などこまかい生き物の働きまで含めた複合要因の中で行うので非常に高度になり、手間も膨大なものになります。
農薬を使う栽培は草も虫も微生物も排除するやり方なので、人間にとって効率的で安定感はあり、騒然とした畑の中でお野菜だけが育ちます。
どちらにも共通しているのは、天気や季節の変化、台風などの災害もふくめて自然相手でやっているということです。
完全に人間の都合だけでは行えないので、労力が計り知れない部分があります。

畑の小松菜
お野菜を買うときに「このお野菜の安全性は?」「このお野菜はどんな人にどのように育てられたのだろう?」と思ったら有機JASの表記の有無だけでなく、ぜひ直接自分の目で確かめてみることをおすすめします。
有機栽培や無農薬栽培をしている生産者の中には畑見学や援農、農業体験といった畑に触れあえる機会をもうけているところもあくさんありますし、ファーマーズマーケットや直売所などでは生産者が立っている場合は直接顔を見ながら話をしてお野菜を購入することが出来ます。
近くにない方は生産者のオンラインショップでの購入方法もあります。ネット上にはたくさんの農園について想いや農法や農園の写真などが掲載されていると思います。
そのように農家から直接、出来れば顔の見える方法で手に入れたお野菜からは、味もさることながら心に響く美味しさを感じると思います。

 

この記事を書いている人

ecプロフィール大輔

三ツ橋大輔
1971年神奈川県横浜市生まれ 
いのちのおやさい農園主

【プロフィール】
大学卒業後、建築設備の現場監督や型枠大工など建築関係の職種に携わる。
初めての工事現場に入ったとき地下二階分の深さまで大きく掘られた地面の穴に地球の痛みを感じ、ショックを受ける。
その後一度日本を離れてアジアの旅に出る。
主にタイ北部の山岳民族の村に滞在し自然と調和した暮らしを経験する。
タイの田舎で目の前で〆たばかりの鶏肉を使った家庭料理を食べ、あまりの美味しさに感動し日本に帰り30歳から料理の世界に入る。
大衆料理を目指し、横浜で中華料理の超人気店にて見習いからスタートする。
見習い時代、前菜で創作した合わせ調味料の味を店舗の総責任者に見込まれ、異例のスピードで鍋のポジションに抜擢され1日100食以上の鍋を振るう日々を送る。
調理場の責任者となり発注業務を行いながら毎日納品される野菜、肉、魚などの生鮮食材がまるで工場製品の様に均一化されていることへの違和感を感じる。
同時に「目の前にある食材はいったいどこでどのようにして育ちどうやって厨房に届くのか?」に関心を持ち始める。
2012年に「人生を変える」と決意する。
2013年オーガニックマルシェにて出店していた新規就農者を通じて「農業」という仕事に出会う。
自然農法の畑を訪れその世界感に魅了され突き動かされる衝動により農の世界へ進むことを決意する。
2014年から2年間、有機農家にて研修する。
2016年『いのちのおやさいfarmette』開園。
2023年 仲間と共に新たに 『いのちのおやさい 』をスタート。

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